古都バラナシへ
バラナシは、インド人、特にヒンドゥー教徒にとっての憧れの地。
日本で言えば、京都のような感覚かなと思います。
文化の中心地であり、古いお寺がたくさんあり、インド人にとっての誇りのような街。
インドでは、ここで死を迎えれば、悟りを得られると信じていて、一生に一度は訪れてみたいと思っている人たちが多いようです。
聖なるガンジス河の周りに、多くのインド人、外国人が訪れます。
私たちも、ガンジス河の近くに宿を取りました。
このバラナシの宿に関して、面白いシンクロが起こったので話してみたいと思います。
バラナシに来る1日前のこと。
ブッダガヤで、私たちは、お寺めぐりをしていました。
ブッダガヤには、シッキムのお寺、チベットのお寺、ブータンのお寺など、いろんな国のお寺が集まっています。
日本のお寺を訪れた時、ちょうど、座禅が始まる所でした。時間があまりなかったのですが、せっかくなので、参加することにしました。
日本のお寺に、日本のお坊さん、そして日本の般若心教。インドにいることを忘れてしまいそうでした。
40分ほどの座禅が終わました。フランス人らしき男性と、東洋人の女性のカップルがいるのを見かけましたが、話はしませんでした。
翌朝、私たちは、バラナシ行きの予約したバスを待つため行ってみると、なんと、そのカップルが立っていました。
彼らも、同じバスで、バラナシに行くのかな?でも少し遠いところに立っていたので、まだ話はしませんでした。
掘っ建て小屋のようなバスチケット売り場から、バス停までは、オートリキシャで行くようにと言われ、そのカップルと私たちはオートリキシャをシェアしていきました。
バスが到着してみると、びっくり。あまりにもオンボロのバスでした。
これで、バラナシまで!?
まるで、地元の人が普段使うようなバス、いやそれよりも酷い、古くて、小さくて、大丈夫かな?と心配になるようなバスでした。
そのカップルの後ろに私たちも座り、バスは出発。
デコボコの道でバスが揺れるたび、「ガッシャーン」「ガッチャーン」と金属の衝撃音が、体に直接響きます。
6時間で到着と聞いていたのに、着いたのは10時間後。
たくさんインドで旅をした中で、一番ひどいと言わざるを得ないバスの旅でした。
バラナシに到着した時、そのカップルと私たちは初めて話をしました。
オートリキシャをシェアして、街中まで行こうということになったのです。
なんと、彼らは二人で100ルピーしか持っておらず、ATMに行く必要があるとのこと。
100ルピーでは、どんなに値切ったとしても、到底、オートリキシャで街中までいけないことは、みんな分かっていました。
私たちは、「大丈夫、一緒に行こう!気にしないで」と言うと、
彼らは、「後でATMに行ったら返しますから」と律儀に言っていました。
もう泊まるとこを決めているか、お互いに聞いていると、彼らは、すでに決めているとのこと。
私たちは、到着してから決めるつもりだったので、まだだと言うと、「よかったら、他に空いているか聞いてみるから、一緒に行きませんか?」と言ってくれました。
10時間のバス旅で疲れ果てていた私たちには、この申し出はとてもありがたいものでした。
100ルピーしかなくてオートリキシャに乗れなかった彼らと、宿探しをこれからしなくてはいけない私たちが、ちょうど巡り合って、お互いに助け合うことができました。
宿に着き、空いている部屋があったので、私たちはそこに数日、泊まることにしました。
最初の日は、オーナーの奥さんが出て来て部屋を用意してくれたのですが、翌朝、オーナーの男性が現れ、挨拶をしてくれました。
その男性を見て、「あれ?」と思いました。
9年ほど前に、バラナシに来た時、宿のオーナーがすごくいい会話ができて、写真付きで、ブログに書いたことがあり、もしバラナシに来たら、またこの男性のゲストハウスに泊まりたいなと思っていました。でも宿の名前も覚えていないし、行き方も忘れてしまっていたのです。
メイエルにもその写真を見せて、このおじさんの宿を探そうかなと言っていました。
そして現れた男性と、この写真の男性が酷似していたのです。
「君は、日本人だから、インド人の顔はみんな同じに見えるんだろう」とよく夫に言われるのですが、
この時ばかりは、「確かに、この宿のおじさんは、この写真の男性によく似てるね」と言っていました。
宿に連れて来てくれたカップルや、宿で新しく友達になった人にも写真を見せると、
「これはそっくりだ。兄弟かな」と言うくらい。
その夜、玄関で、宿のオーナーに会ったので、「あなたにすごくよく似た人の写真を持っているのですが、見てくれませんか?」と言いました。
「部屋で話しましょう」と言われ、部屋に行きました。
おじさんは、メガネを変えて、私のブログの写真を見ました。
すると・・・
“It’s ME!!” 「これは、私です!」
えー!想像もしていなかった言葉でした。
まさか、同一人物!?
「でも、ここに泊まった記憶がないんですが・・・」と言うと、
「ほら、この写真で、私たちが座っているソファ、今もこれありますよ、下に。
あなたが泊まっていた部屋も後で見せましょう」
その場にいた、息子さん、奥さん、メイエル、おじさん、そして私、みんなが興奮しました。
「あなたとすごくいい会話ができたから、ブログにも書いていました。
バラナシに来たらまた泊まりに来たいと思っていたから、
あなたの宿を見つけに、明日から探しに行こうかなと思っていたんですよ!
それが、もうすでに、泊まっていたなんて!」
そして、おじさんと、息子さん、私とメイエルで、下の階に降り、私が泊まっていたフロアや玄関、写真に写っているソファを見せてくれました。
「なんで、前泊まっていたのに、覚えてなかったのかな」
「あなたが使っていた玄関は、今は壊れて、閉鎖したんです。このフロアに来たら、思い出したでしょう?」
確かに、自分が泊まっていたフロアに来たら、記憶が蘇って来ました。
この宿に連れて来てくれたカップルに伝えに行きたいと思いましたが、もう夜10時になっていたので、一人で興奮しながら眠りにつきました。
ブッダガヤの日本のお寺で会ったのも、一緒のバスでバラナシまで来たのも、お互いが困っていて助け合ったのも、全部、意味のある偶然の一致だったんだなと思いました。
ただ、残念ながら、この宿には3日しか泊まりませんでした。
なぜなら、トイレやバスルームがあまり綺麗じゃなかったからです。
部屋に入る前からあまり掃除がされていないようで、掃除をお願いしたのですが、
「今日は、掃除の人が来なかったけど、明日はきっと来るから」ということで、3日たっていたのです。
このまま、このバスルームを使い続けるのは、無理でした。
それで、心苦しかったのですが、他の宿に移ることにしました。
メイエルは、インド人とのコミュニケーションが、当然、私よりうまいので、説明を全てお願いしました。
「あなたもご家族も、とてもいい人で、宿もいいところだし、ロケーションもいいし、言うことないんですが、
ちょっとバスルームの衛生が私たちには大事で、
それから、妻がもっとガンジス河に近いところがいいと言っているので、
本当にすみませんが、他の宿に行くことに決めました」
ソフトな口調で、チェリンがそう語ると、おじさんも、奥さんも、両手を胸の前で合わせて、コイバドネ、コイバドネ(問題ありません)と、ソフトに答えていました。
奥さんも「ビジネスと、人間関係は別物ですから、ぜひ、これからも関係が続くことを望みますし、どうぞ遊びに来てくださいね」と言ってくださいました。